面白い話

その１

虫の卵

　

前に住んでいた家の近くにとっても、きれい好きな奥さんがいた。

毎日毎日お掃除をして、家の中は　いつもピッカピカだった。　
その彼女が　ある時とても悲しそうな顔をして私にこうたずねてきた。
「ねえ・・・黒くて　硬くて　ピストルの弾みたいな形の
虫の卵って　なんだかしってる？」
「えっ！？」
「実はね、ここ毎日　家の中に黒くて硬くて片方が平らで
もう片方がとんがってる　なんかピストルの弾みたいな形の物が落ちてる
のよ・・・毎日お掃除してるのに昨日も今日もだんだんふえてくるの・・・
きっとなんかの虫の卵だとおもうの・・・でも、成虫は見たことないの・・・
それが米粒ぐらいでさあ、いっぱいおちてるのよ、かたいのよ
ゴキブリの卵みたいなのかとも思うのだけど ちょっとかたちがちがうし
気持ち悪いとおもわない？あたし、毎日掃除してるのになんだか
なさけなくって・・・」
きれい好きの彼女は　よっぽどこたえたらしく　憔悴しきっていた。

　黒くて　硬くて　ピストルの弾みたいな卵・・・
　　　　　　　　　　　　　　　

　　私は、友だちのためと懸命に図鑑で調べたのだが、それらしい虫は、一向にみつからない。
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

彼女は、日に日に疲れて　泣きそうになっていった。

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　ところがある日、それは　彼女の妹さんの何気ない言葉からあっけなく幕をとじた。
　「ねえおねえちゃん！ベランダの健康サンダル　そろそろ買い換えなく
ちゃね。イボがだんだんなくなっちゃった。」
　

　　　　　そう、言うまでもなくその卵は、健康サンダルのイボだったのだ。　
　　靴下にくっついて家の中に転がっていたのだろう・・・　

　

　　次の日　そのはなしをきいた私たちは、道路にひっくり返ってわらったものだ。
あの時の彼女の困った顔。卵らしきものが気持ち悪くて、さわれなかっ
た自分達。思い出すと　おかしくって・・　足をバタバタさせたものだ。
　　 あの時のことは、今思い出してもニヤリとなる。生きているのが　たのしくなる・・・